有料音楽配信と、ITの進化に興味のない"デジタルネイティブ"
前のエントリーから2か月も空いてしまいました!立て込むとなかなか続かないですね。。2週間に1回ぐらいにしたいものです。
今回は前回までと打って変わって、特定のアーティストのことではなく、
昨今話題の「サブスクリプション型定額音楽配信サービス」を中心に若者と有料音楽配信の関係について考えてみました。
普段実際にいろいろ見聞きする中で(若者からもそうでない人からもです)「"デジタルネイティブ"な若者って、実はデジタルサービスのこと、全然よくわかってないんじゃないだろうか?」という話が出てきて、それがとても腑に落ちたこともあり、
そんな趣旨をベースに、「何故有料音楽配信は(ダウンロード購入も、サブスクリプション型も)さほど普及しないのか」いろいろ語ってみました。
※記事のアイキャッチは下記から設定させていただきましたがなんの関係もございません。悪しからず。
スマホで音楽を聴く人が急増中!!ソニー ワイヤレスヘッドホンムービー「ダンスリレー」篇 3月15日(金)より公開|ソニーマーケティング株式会社のプレスリリース
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■オンデマンド型サブスク音楽配信の苦戦模様
音楽好きの間ではローンチ当初盛り上がりを見せたサブスクリプション型の定額音楽配信サービス。今年ローンチした主要3サービスはその中でも特に「オンデマンド型」と呼ばれる、ユーザーが好きに聴きたい曲を選べるタイプのサービスですが*1、その無料期間が終了しつつある中その「結果」が表れつつあります。
「定額制音楽配信に関する調査」1年以内のサービス利用者は8%、「Apple Music」が最多。今後の利用意向者は9% http://t.co/QqYKdO4Dtc
— ミュージックマンネット (@musicman_net) September 30, 2015
ざっと見て、サービス利用者が全体の1割、そしてさらに今後の有料課金見込みユーザーは1割。あれほど「音楽好き」に騒がれていたにしては思ったより少ないという印象ですね。
個人的な見立てなのですが、こうしたサービスは実はあまり若者に浸透していないのではないように感じています。
アプリ内にYouTubeなどから音源がひっぱってきてあり、それらを聴くことのできる無料アプリというものがあります。MusicBoxや、MusicTubeeなど。当然、これらは法的にはかなりグレーゾーンなアプリです。
ですが、こうしたアプリで音楽を聴いている人が、特に若者には多いのです。
そしてそうした人々は基本的には熱心な「音楽好き」ではないですね。無いなら無いで他の娯楽で代替できるような、ごく普通の、ライトな関わり方をしている人々。
そういう人にとっては、無料でほとんどの楽曲が聴けてしまう以上、あえて課金して新サービスを使おうというのは、まああり得ない話ですね。
■巷に巣食う、「ITサービスはなんだかよくわからないから」
とはいえ、サブスクサービスにはこうした無料アプリにはない付加価値があるのも事実です。レコメンドエンジンやアーティストや友人とのコミュニケーション機能など・・・
ですがそこに魅力を感じている人が想像以上に少ない。魅力に気づいている人も少ないのではないでしょうか?
そしてそれ以上に、どうやら思っているほど世間の人はこうしたITサービスの進化についていけていないのではないか、とも思われます。
興味のある人は自分で調べてキャッチアップしていくでしょう。周りに詳しい人や興味を持っている人がいる場合も比較的使いこなせるようになっていきます。
が、聞いたところによると、若いから、といっても各種アプリやサービス、またiPhoneユーザーならApple IDによる端末間の連携他、「イマイチなんだかよくわからない」という人も多いようなのです。
この「なんだかよくわからないから」という理由こそが、サブスクリプション配信サービスも含め、音楽にかかわるデジタルコンテンツ全般の不振の1つのボトルネックなのではないかと感じ始めています。
実を申しますと、私、こんな記事を書きながらも、AWA・LINE MUSIC・Apple Musicについてはローンチしてすぐにユーザー登録したわけではなかったりします・・・(もちろんその後一通りは触りましたが。)これは、なんとも形容しがたいのですが・・・確かに私も感じていました、この「なんだかよくわからないからとりあえず手を出さないでおこう」という感情・・・
■着うたは本当に若者の「コミュニケーションツール」だったのか?
さて、いったん話を別の話題に振りましょう。
「着うた」というものがありましたね。着うたの最盛期は、2008~2009年ごろと考えてよいでしょう。 *2※
※日本レコード協会の統計にはグラフ化したものはありませんでしたので、下記参考までに。
※※参考までに、古いデータですが。
よって、現在のデジタル音源のダウンロード配信販売が伸び悩んでいることの原因としては、ガラケーからスマホへのデバイスの変化が指摘されることが多いです。
着うたについての考察としては、面白い記事がありました。
着うたはコミュニケーションツールだった、ジュークボックスの役目を果たしたのだというのです。
氏によれば、
「着うた」という文化がまるごとなくなったのは何故か。その理由は、そもそも着うたが「音楽そのもの」(=コンテンツ)ではなく「会話のきっかけ」(=コミュニケーションツール)を販売するサービスだったから。僕はそう考えています。
「LINE Music」はスマホの普及で壊滅した「着うた」文化を蘇らせる - 日々の音色とことば
「ねえ? これ知ってる?」という会話のきっかけになるものに、人はお金を払うわけです。
「LINE Music」はスマホの普及で壊滅した「着うた」文化を蘇らせる - 日々の音色とことば
ということだそうです。
私、この記事を読んだ当初、ははあととても納得したことを覚えています。だから私も当初は、「サブスクサービスが今後はそこに取って代わるに違いない!」とサブスクサービスに非常に期待感を抱いたりしてました。
ただ、今、よく思い出してみたのです。私、何を隠そう、着うた全盛期世代に青春を過ごした人間でした。着うたで友人とコミュニケーションをとったことがあったかな・・・と、、、
う~ん、私自身の中には、思い当たりません。。
本当にジュークボックス的な存在だったのでしょうか?
ただ1つ、言えることがあります。楽曲そのものについて語った記憶はありませんが
着うたとやらをどこでどう手に入れるか、ということについては、初めは友人づたいに、だったと思うのです。
――つまりこういこうとではないでしょうか。着うたは確かに、友人同士のコミュニケーションツールだったかもしれません、ですがそれは着うたという「ツール」の存在とその使い方について、語られたにすぎないということ――
■"デジタルネイティブ"とは「デジタルツールに詳しい」という意味ではない
話を元に戻しましょう。
前述のMusicBox等、無料の違法音楽アプリですが、App storeやGoogle Playのランキングでは常に上位にランクインしています。グレーゾーンなアプリにもかかわらず、です。ランキング上位なので、人気で、安全で、信頼のおけるアプリであると、思ってしまうことは無理もないことです。
また、こうしたアプリは友人のススメや口コミで使い始める人も多いみたいです。
まさに、ガラケー時代の着うたに取って代わったのは、これらのアプリと言っていいと思います。
日本は他の国に比べて、PCやタブレットよりモバイル端末(ケータイ)文化が根強く、音楽以外も含め、通勤通学・移動中等にケータイで何かができる、ということに非常に需要があると言われています。着うたも日本独特の文化です。
よって、本来ならば、スマホ移行後は、レコチョクやmoraといった楽曲のダウンロード販売のチャネルからの楽曲購入へお客さんも移行するのが自然な流れと見えますが、そうはならなかった。
お分かりかと思いますが、そうしたチャネルから楽曲をダウンロードし、再生するには、さらにそれ専用のアプリ(プレイヤー)をそれぞれダウンロードする必要があり、正直、かなり面倒です。違うチャネルで買ったものを別のプレイヤーで聴くことはできない。
・・・これ、自分で書いていても思うのですが、さほど難しくはないにせよこの仕組みを友人同士の世間話程度に口頭でサクッと説明するのってちょっと厄介な気がします。少なくとも直感的ではない。ダウンロードしたはいいものの、どうやって聴けばいいの?という部分が若干わかりにくい。
一方、ガラケーの時には、iモードなりなんなりを開いて、レコチョクでもどこでも、ダウンロードしてしまえば端末のメモリーに入り、すぐさま聴くことができました。
ちょっとの差ではありますが、最初にも書いた通り、実は世間一般の若者ってさほどデジタルサービスに詳しいわけでも、興味があるわけでもないんですよね。ただ、物心ついたころから「そこにあった」だけで、知ろうと思って知識を得たわけではないのです。
だからこそ、友人からの口コミで知る程度ですぐに理解できるような、単純で分かりやすいモノ以外は、「なんだかよくわからないモノ」となってしまう。
ちなみに、サブスクサービスは、いちいち楽曲をダウンロードして、専用のアプリもインストールして・・・という手間がない点では、実際のところ比較的単純な仕組みだといえますが、1回利用し始めた後やめてしまうと、せっかく自分好みにプレイリストなど、カスタマイズしたところで聴けなくなってしまうため、なかなかやめづらくなる、というリスクがある点はユーザーを漠然と不安にさせる要素の一つかもしれません。個人的には料金プランが複数あることも、「なんだかよくわからない」感をあおる一因にも思えていますが・・・
また、蛇足かも知れませんが、今の若者(「今の若者は・・・」なんてつまらない議論ですが)は、無駄を好まないと言います。リスクを取りたがらないというのもあります。
試しにアプリを入れてみるということに対して慎重、日常的に使わないツールはすぐに削除。
彼らのスマホは、友人のオススメやアプリランキング上位のものが最低限並んでいるだけの、思ったよりもシンプルな画面だったりします。
意外と、新しいサービスやアプリ、IT技術に色めき立ってすぐに使いたがるのは若者ではなく、「オジサン」たちなのかもしれませんね。
■ツールは課金するものではないと思っている人々
繰り返しになりますが、やはり日本の若者はモバイルファースト。デジタルネイティブは、自分で調べて知識を得た上でデジタルサービスを利用しているのではありませんから、無駄な手間やものが増えずに、友達に聞いた程度で扱えることがとても大事です。
加えて、楽曲のサブスクリプション配信サービスについては、1曲1曲を購入して聴くよりも「ツール」という捉えられ方をされやすいとは思います。本当はコンテンツの集合体なのですが、楽曲を聴くためのただの「ツール」「道具」として捉えるならば、たしかにそれに課金するという発想は生まれにくいかもしれませんね。YouTubeという「ツール」に慣れ親しんでいるからこそです。
純粋に比較すれば、iTunesやレコチョクなどで1曲ごとに購入すること、もっと言えばTSUTAYAで5枚1000円でCDをレンタルすることと、月額1000円程度で無数の楽曲が聴けることは、後者のほうが当然圧倒的に割安ですが、「サブスクを使うくらいならレンタルで済ます」という若者も非常に多いようなのです。
これは一見かなり奇妙に映る行動ではありますが、彼らはそもそも、前者は「コンテンツ」として、後者は「ツール」として認識しているのではないでしょうか。つまり、前者と後者は、比較対象としてのレイヤーがそもそも異なっている。そのためか、ダウンロード販売やレンタルに対するサブスクの価格の割安感を訴求したところでどうもピンとこないようなのです。
彼らがサブスクサービスと比較対象とするのはあくまでYouTubeやMusicBoxというツールであり、それゆえ「単なるツールがお金をとるなんてバカげている」という感情につながっている。
そうした認識が生まれるのも、若いからといって、「デジタル時代の最新ツール」にお金を払うほど興味を持っていないからなのかもしれません。
下の記事の中に出てくるユーザーの声なんて、まさにそんな感情がにじみ出ているように見えます。
(「30秒しか聴けないなんて何様だよ」なんてまさに、「ツールごときが金をとるなんて!」という感じが伝わってきますね!)
※下記は、上の記事から引用したユーザーの声
「ずっと無料にしてほしい。 無料期間終わったら30秒しか聴けないとか、何様だよ」
「学割とか何よ。無料で聴かせてよ」
「無料期間にダウンロードした曲も買い直さなきゃならないのか」
「無料じゃなくなったLINE MUSICはアンインストールするしかない」
「今度はAWAの無料お試しに移行する」
「LINE MUSICよりMusicBoxがいい」
では曲ごとにダウンロード購入するかというとそうではない。
前述のとおり、やはりこれはガラケーからスマホ移行時期に、ガラケー時代と同程度の分かりやすさを持ったサービスやプラットフォームを生み出せなかったというのは一つ大きい部分かなと感じます。(当然他にも理由はあるでしょうが今回のテーマから逸れそうなので割愛)よって、スマホ移行後こちらのスタイルも上手く根付かなかったと言えます。
サブスクに魅力を感じないし、そもそも、なんだか使い方がよくわからない。
ダウンロード販売は、スマホで聴くにはなんだか面倒くさそうだし、どうやったらいいかわからない。
――そんな一般的な"デジタルネイティブ"な若者は、結局、グレーな無料アプリやCDレンタルという方法で、満足し切ってしまっていて、あえて新しいものに手を出そうとは思えていない、というのが現状でしょう。
ただし、音楽が日常に欠かせない「音楽オタク」的なタイプの人々にとっては、サブスクに関しては重宝されていきそうですね。だからこそ、ローンチ直後に音楽ライター的な人々には騒がれたわけですね。
そうした人々にとっては「インフラ」として機能していくサービスだとは思いますが、やはりそうでない音楽は暇つぶしでしかない人々にとってしてみれば、それに月々支払う必要性は、今のところ感じられないのだと思われます。
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ということで、今回は、若者にフォーカスを当てて、課金型のデジタル音楽配信サービスがなぜ彼らに受け入れられないのかを考察しました。
デジタルネイティブと言えど、いや、デジタルネイティブだからこそ、「なんだかよくわからないけど複雑そう、使いにくそう」なイメージを一度持たれると、彼ら若者はもう二度とそのサービスには戻ってはきてくれないのかもしれません・・・。
*1:そうではない、あらかじめ選曲がプログラムされたものを聴くタイプのものを「ラジオ型」と呼び、dヒッツなどが筆頭ですが、今回の記事ではサブスクリプションサービスについては主に「オンデマンド型」を指しています。
*2:日本レコード協会の統計(一般社団法人 日本レコード協会|各種統計)では、有料音楽配信売上データについては2005年以降(着うたの登場は2005年)のデータしかありませんが、こちらを元にすると、2008~2009年ごろの売上が最大(2009年:910億円程度)。うち、着うた比率までは出していません。スミマセン。。目安と思って下さい。
*3:ちなみにiPhone3Gが日本で発売されたのが2008年。以降2010年のiPhone4発売くらいまではスマホはさほど一般には普及していませんでした