ROTH BART BARONは音楽の未来を“取り戻す”ー小さな巨人たちへの5つのまなざし(4)
4.プロモーション:新しさと戯れるオープンな好奇心
ROTH BART BARONは、そのフォーキーなスタイルゆえに極めて牧歌的でトラッドなバンドであるかのように見えるが、その実、はっきり言って、国内のどんなアーティストよりも「新しモノ好き」なバンドである。
特に、自分たちの音楽を届けていくにあたって、デジタルツールを活用することを惜しまない。
たとえば、2015年リリースのアルバム『ATOM』のリリース発表時には、彼らがレコーディングをしたモントリオールのスタジオでのセッション風景やレコーディング風景、その他、制作活動の様子を360°動画で収録したものを、いきなりオフィシャルサイト上に(しかも複数本)アップして、ファンを驚かせた。
また、ちょうど時を近くしてTwitterアカウントとの連携が容易な生配信アプリ“Periscope”が日本語に対応し始めた際には、早速そのPeriscopeで自身のライブの一部を生配信してみたりしているのも見かけた。
もちろん、360°動画やPeriscopeでの生配信は今でこそよく見られるようにはなってきたものの、当時2015年~16年初頭にかけては一般的な認知もそこまで高くなかったことを記憶している。ましてやその頃、国内のアーティストでそれをプロモーションにここまで積極的に使用した例はほとんどなかったはずだ。
彼らの、新しいツールに対するそうした子どものように純粋で開かれた好奇心はそれだけでも彼らの寛容さを体現しているわけだが、さらに言ってしまえば、そうした新しいものに対するアンテナの高さこそが彼らが他の多くの国内アーティストと一線を画す部分でもある。
それは、ストリーミング配信(特にオンデマンドのサブスクリプション配信)に対する姿勢ひとつとっても明らかだ。多くの国内のアーティスト、あるいはプロダクション・レーベル等にとってはやはりまだまだサブスクはネガティブな存在であることは想像に難くないわけだが、そうした国内の状況とは正反対に、ROTH BART BARONはそもそも日本に上陸する以前から自身の作品をSpotifyで配信していた。
「Spotifyは海外では名刺代わりだ」と言い、世界中の誰しもに向けて自分たちの作品を届けようとするアグレッシブな姿勢は、日本という狭い範囲に留まらずしっかりと海の向こうの今のスタンダード、すなわち、音楽のリリースの仕方がすでにほとんどストリーミングに移行してしまっている潮流にも目を向けていることの表れであり、清々しいほどのオープンな精神に裏付けられたものだ。それは、昨今のメジャーアーティストにどことなく感じてしまう、すでに付いているファンを囲い込んでそこからできるだけむしり取ろうというような、世の中との「閉じた」関わり方とは、全く相反するものでもあるのではないだろうか。
(もちろんサブスクでの配信に否定的なアーティストは、彼らにとって、言ってみれば、より「ワリのいい」何よりも大切な収入源であるCD販売を守ろうと必死なのであって、彼らの抵抗感を一概に否定することは、筆者にも到底できないのだが。)
realsound.jp〔下記は上記事からの引用〕
三船:イギリス人の友人から聞くだけでも、バンドはCDを作らないし、ヴァイナルを出さないとバンドじゃないと言いますし。基本的にはヴァイナルでシングルを出して、アルバムをリリースして、そのあとにシングルカットしますよね。あとは基本的にストリーミング主導みたいです。
中原:一緒に共演した海外のバンドは、二言目に「君たちのSpotifyアカウントを教えてくれ」と言って来ますし、もはや名刺代わりのようなものですよね。それがないと話にならないくらい。家に招待してくれた友人も、リビングでSpotifyを経由して音楽を流していたりと、向こうでは生活の一部になっています。
たとえば仮にApple Musicで楽曲を配信していたとして、“Connect”で情報を発信したことのある国内のアーティストがどれだけいるだろうか。あるいは、クラウドファンディングにチャレンジするアーティストがここ数年でどれだけ増えただろう。もちろんROTH BART BARONはそのいずれもすでにチャレンジしている。
クラウドファンディングの資金を持っての渡英中は、(スタッフからではあるが)毎週のように支援者にイギリスでの活動の様子を写真たっぷりのメールで伝えてもくれていた。
これは実際、支援者のひとりとして、平日の朝方に届くこのメールを読みながら通勤したりするのが純粋に楽しかった。
一部のアーティスト(特に国内のアーティスト)は、楽曲を作りライブをするという制作・演奏の面には当然長けている反面、デジタルテクノロジーのトレンドについては多くのレイトマジョリティーと大差ないと思えることがしばしばある。一般的に言って、誰よりも「新しさ」に挑戦していくことが仕事であるはずのアーティストという職業の人々こそ、新しいツール=道具に誰よりも慎重になってしまってはいないだろうか……
もちろんそういった慎重さには「ビジネス的なジャッジゆえ」という側面もあるだろう。そこに異論はない。
それでも、そうした一部のアーティストになくて、ROTH BART BARONにあるのは、「うまくいかなくても、続かなくても、まずは新しいものを誰よりも早くキャッチして、面白がって使ってみる」という新奇性と創造性なのであって、それはいたって単純だがしかし、それこそがアーティストという生き物の衝動の根幹にも通ずるところなのでもあるだろう。
少なくとも、ROTH BART BARONは、そういった意味では本当に瞬発力に長けたエキサイティングなバンドであり、そして同時に、アーティストの本質というものを、自らを実験台に体現しようという、粋なバンドなのだ。