週末ひとりけんきゅうしつ

つれづれなるままにひぐらし音楽と社会をながめる人のひとりごと。(もはや週末関係ない)

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最近聴いた新譜:agraphとThe fin. (´-`).。oO(電子音のテクスチャーってやつは奥が深いですね。)

音楽の聴き方とビジネスの仕組みについて書くのもちょっと疲れてきたので、

これまでほぼやったことないんですが、

練習と備忘録がてら、レビューもどきのようなものをぶち込んどこうと思います。

 

やってみると、音楽性の評価のための視座や知識であったり、

過去や現在の他の音楽との連関など、

まだまだ考えるべき切り口の引き出しが少なすぎるな、と痛感しました、、

 

なので、レビューっていうか、ただの感想文です。

 

そんなわけで、最近(といっても1~3月)に聴いたものから抜粋しました。

本当は他にも聴いてますが、書き起こしたのはとりあえず2作です。

 

あまり意識してなかったんですが、選んだ2作はどちらも電子音のテクスチャー(質感)のつくりに惹かれた作品でした。

(余談ですけど、エレクトロニカって、一言でくくるとあまりに幅が広い定義になってしまうくらい、要は細分化されたジャンルなので、どういうものを指しているのかについてどう言葉にしようかいつも悩むんですけど、まあ自分の好きなのはこの類のやつです。)

 

 

文体は探り探りですが…ちょっとカッコつけすぎました(爆)

まあそれくらいしか特徴をつけられなかったので恥をしのんでそのまま晒しときます。

 

agraph / the shader

【Amazon.co.jp限定】the shader [国内盤]特典マグネット付 (BRC497)

メーカー: BEAT RECORDS

発売日: 2016/02/03

 

擦りガラスを通して外を眺めているような、あるいは深い水中から水面を見上げるような、とでも言うような、ともすれば単に音が悪いようにも感じられる音像、という印象の作品。音の鳴っている場所とそれを聴いている自分の間に確固たる隔たりを感じさせる。

前作、前々作の延長になることを意図的に拒んだという今作はたしかに、どこか人懐っこさのあるコロコロとした音像でもって色彩感たっぷりに情景を描いていたこれまでから一転、抽象度の高さで聴き手を突き放している。

 

そのように突き落とされた深いところで鳴っている音の、息苦しいほどにまとわりつく密度の高さ。気の遠くなるほどに塗り込め重ねられた音の群像が、あたかも物質的なかたまりが確かにそこにあるかのような重力を楽曲に持たせている。

ノイズだけで40トラック近く重ねられているというように、決して音量が大きいわけではないのに、曲中のノイズの厚みのせいかその対比で曲間の無音部分にはっとさせられ、そこでやっと息継ぎができるような、そういう重たさがある。

 

ねっとりとした音の質感、その配置、各トラックの音の浮き沈み、それらの組み合わせは有機化合物の構造のような複雑さ。本人もインタビューで語っていたように、これは楽曲というよりも遠ざかり俯瞰することで見えてくる 「構造物」に近いのかもしれないと思う。
これは良い意味だが、 はっきり言ってこの作品は「なにも伝えていない」。「音の鳴っている場を構築する」という、文字面だけ見るとなんとも茫洋とした、メタ的な取り組みなのだ。

 

とはいえ、浮き沈みしながらも現れるメロディに感じる叙情性がこの手のジャンルの陥る難解さをギリギリ回避しているようにも感じられ、そういった意味では前作までのドラマチックな側面もまた引き継がれている。しかしその叙情性は、言語にはならない感情の起伏を表現しているに過ぎないのかもしれない。

 

多すぎる言葉が時に軽々しい作品の氾濫する昨今において、メッセージ性から遠くかけ離れながらもめまいのするような情報量で息もつかせない怪作。

 


agraph - greyscale (video edit)

 比較的前作までのメロディアスな特徴の強いM3。とはいえ「構造」を表現するという意図はこのMVにもよく表れていると思います。

 

 

The fin. / THROUGH THE DEEP

Through The Deep

メーカー: HIP LAND MUSIC

発売日: 2016/03/16

 

多くのバンドは世間に知られていくにつれて多かれ少なかれ、保守的に、すなわちポップで分かりやすい方向に向かいがちだと思っている節があるのだが、彼らはその真逆だ。

どちらかというと歌のメロディを中心に据えて構成されていた前作までの楽曲群と打って変わって、今作はよりポピュラリティから離れたエレクトロニカに傾倒している。

新人でありながらより多くの人に受け入れられる方向付けではなくニッチなジャンルへ向かっていくのはあまり例を見ない、と個人的には思う。

 

前作までも、浮遊感のある打ち込みやシンセの音飾も使われていたわけだが、個人的にはその2つの音の質感はぶつかってケンカしているように感じていた。

また、前述のとおりどちらかというと歌のメロディを中心に組み立てた上でエレクトロニカ「風味」に寄せて仕上げたような楽曲が多かったように思うが、それゆえか作品を通して聴くと曲のバラエティに欠ける印象があった。

 

今作、特に変化があったのはおそらくビートの部分かと思う。前作のアルバムは4つ打ちの生ドラムが基本であったが、今作はよりエレクトロニカ的な側面を核にして聴かせていくにあたってか、生ドラムだけでなく打ち込みの音飾のビートも交ぜ、拍を細かく積み重ねている。タメをしっかり作った後ろノリが心地よい。


音飾、その重ね方にも試行錯誤を感じた。たくさんの音を重ねて空間を埋めるのではなく、必要な音を必要な箇所にミニマルに使うことで、前作までの楽曲よりむしろ奥行きが出ているし、音の質感、リバーブのかけ方のニュアンスも丁寧。

ジャリジャリとしてやや存在感のうるさかったギターの音も自然に溶け込んで、全体としてドリーミーなやわらかさが出ている。

 

本人インタビューではエレクトロニカの中でもアナログなものを好んで聴くと話されていたとおり*1、目指す音楽性自体は前々作、前作とあまり変わっていないとは思うが、今作ではその、電子音であたたかみのある音像を描き、生のバンドサウンドとの調和をとるアプローチがぐっと洗練されてきた。

 彼らの表現したい世界観がとても立体的に見えるようになっており、今後の方向性を示唆する象徴的な位置づけの作品になるはず。

 

 

蛇足だが、やはり、英米からすると、どうしても日本(をはじめとするアジア)はロックミュージックの分野においては、後進的に見えてしまうという壁が越えられない現状があるように思う。

それはロックミュージックの成り立ちや日本での受容の歴史上、ある程度仕方のない部分ではあるが、一方こうしたエレクトロニカ色の強い音楽は言語や思想、社会基盤などに依らないことが多いため、「ボーダーレス」を比較的担保できるのかもしれない。

 

彼らはまだまだ若手でありながら、ダブリンでのMV制作やUK盤リリース、SXSW出演、USツアーなど、海外での活動を意図的に並行して行っているが、今作での音楽性の変化も、ワールドワイドを意識した拡張性のある音楽を志向した結果なのかもしれないとも感じた。

 


The fin. - Through The Deep

タイトルでもあるリード曲のM3にびっくりしました。ビートが洗練されてます。

あと、女子がかわいい。。最後が「蝋人形の館」っぽい展開なのは謎。

 

 

*1:ROCKIN' ON JAPAN 2016年5月号